舟を編む (2013)
本棚から溢れ出し横積みされ廊下にまで並べられる書物の中に埋もれるように暮らしている主人公・馬締(まじめ)
馬締は彼には相応しいと思われる出版社勤めなのにも関わらず、営業部に配置され人付き合いの下手な彼は売上成績も上がることなく周りから変人扱いされながら日々を過ごしている
そこに社内でも存在感の薄い辞書編集部のベテラン編集者である荒木から馬締に“スカウト”の声がかかる
定年間近な荒木は自分の後継者を探していたのだ

辞書編集部に移った馬締はそこで辞書編纂というとてつもない大仕事に身を投じることとなる

時に単語の海に溺れ、もがき苦しみながらもさらに言葉を探しつつオールを漕ぎ続ける・・・
定年後、妻に先立たれ嘱託として復帰し刊行に大きく貢献した荒木
意にそぐわぬ人事で途中離脱するもしっかりと辞書を送り出す先輩・西岡
完成を見づして逝ってしまう監修の松本
やがて15年の歳月を掛けて辞書「大渡海」は完成する
そしてそこには仕事において決して妥協を許さない編集者として成長した馬締の姿があった
辞書作りと言う人生に大きく係る事業の進むなか、人とあまりかかわらない馬締にも幾つもの出会いがある
仕事の面で言えば辞書監修の松本の生き様が馬締に人生の指標を与える

『言葉の海。
人は辞書と言う船でその海を渡り、
自分の気持ちを的確に表す言葉を探します・・・』

松本の言葉に口元を引き締める馬締
そして恋愛という出会い・・・

下宿の大家の孫娘・香具矢(カグヤ)に一目ぼれ

一気に恋の病にかかり倒れてしまう馬締の真面目さには呆れもするが応援したくなる

ラブレターの下書きを先輩の西岡にケチョンケチョンに言われながらも意を決して渡す

この辺り、馬締の不器用さが全開で地味に笑わせてくれる
その恋の相手・香具矢は板前を目指す女性
容姿があまりにも愛らしく、板前と言う職業とはイメージがかけ離れている彼女
出会いの時に穏やかな微笑みを見せたものの、その後常に張りつめたような表情で硬質な声で話す
後に職人と言う男社会に身を置く女性の厳しさ故のことと解る

恋は成就し、紆余曲折はあっても辞書は刊行される
言ってしまえばそれだけのことだけれどもそこにしっかりと生きてきた人間の重さが描かれ観る者の心に響く
今年劇場で観た映画の中ではピカイチ!
『舟を編む』の作りはとても丁寧で作り手の情熱がヒシヒシと感じられる
辞書作りと言う僕の全く知らない世界を決して大げさでなく華美にせず、それでも興味深く教えてくれながらもちゃんと人間の物語を描いている
不器用な主人公・馬締の成長して行く姿の描き方も軸がブレず素晴らしいし、彼の妻となる香具矢も彼女自身の世界観までもが感じられ存在感は十分だけれども、あくまでも主人公の良き伴侶と言う位置から逸脱しない
ちょっとチャランポランな感じの先輩・西岡が恋人と一緒に馬締の下宿に来るシーンは思わず泣きそうになったり、ベテラン・荒木が定年で去る時、あとを託す馬締に“袖カバー”を渡すシーンなどは取って付けた感が無くイイシーンだった・・・
シーンの切り替えもよく練られていると思う
特に松本先生の亡くなるシークエンスなどは秀逸だ
映画Blog仲間にも声を大にしてお薦めしたい
松本先生のことばを覚えていたであろう馬締が選んだこの場所でのラストシーンがまたイイ・・・

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